2050カーボン・ニュートラルとカーボン・ニュートラル・ポート

2020年10月26日、臨時国会冒頭の所信表明演説で、菅総理は「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と表明しました。総理補佐官として菅総理が、環境問題、脱炭素化社会の実現、エネルギー政策に並々ならぬ意欲を持っていることは感じており、日本もカーボン・ニュートラルに舵を切るしかないという話しはさせて頂いていましたが、まさかこのタイミングで根回しもなく宣言されるとは、原稿を見た時には驚きました。

この宣言によって日本はそれまでの2050年に2013年比80%削減という従来の目標から大きく踏み出しました。また、翌年4月の気候変動サミットでは、2030年に2013年比46%削減、更に50%削減の高みを目指すと、それまでの26%削減から大幅に目標値を引き上げました。2013年から2050年までコンスタントに削減するという非常にチャレンジングな中間目標です。

それまでの積み上げベースの議論ではなかなかここまで踏み切れずにいました。経産省や経済界には影響が大き過ぎると慎重な声もありました。現在の経済、社会生活には大きな影響を及ぼしかねず、実現は容易ではありません。しかし、世界の国々が気候変動への危機感を共有しカーボン・ニュートラル目標を次々と宣言、世界のESG投資が3000兆円に達する中で、日本がいつまでも消極的な姿勢を続けている訳にはいきませんでした。日本企業の中には、株主やNGOから石炭ビジネスを継続していることで厳しい批判を受けている会社もあります。また世界が脱炭素化のルール作りを始めており、このままでは乗り遅れかねないギリギリのタイミングでした。

菅総理のカーボン・ニュートラル2050宣言は「発想の転換」を促すものでした。環境や脱炭素化への取組みを経済への制約ではなく経済成長の糧と考え、経済・社会構造を根底から変えようと考えました。エネルギーを作る側だけでなく利用する側にも脱炭素化を進めてもらおう、2050年をはっきり示すことによりバックキャストで市場規模を想定し投資を促進し巨額に積み上がった内部留保を設備投資に回してもらうことを目指しました。国も2兆円のグリーン・イノベーション基金を創設し、民間の力を総結集しようという画期的なものでした。カーボンニュートラル投資促進税制も創設しました。具体的分野毎のロードマップは2ヶ月後に公表されたグリーン成長戦略に書き込まれました。

今、各分野に横串を刺すアプローチとしてカーボン・ニュートラル・ポートが注目されています。実は「カーボン・ニュートラル・ポート」の構想は私が国土交通大臣政務官として洋上風力発電促進法案を担当した際に、港湾局長から、ヨーロッパでは洋上風力発電をきっかけに再生エネルギーを使って水素産業を育てようという動きがあると聞き、港湾局、資源エネルギー庁と議論してきたものです。国際エネルギー機関(IEA)が2019年に出した「水素の未来」というレポートでは、工業集積港を中枢として水素産業を育成することがはっきりと提言されています。日本は優れた脱炭素化技術を持っているのに、個別企業の実証試験という「点」で終わってしまっていました。これを「面」で捉えるためのプラットフォームとして港に着目しました。

港の中での取組としては、例えば、フォークリフトやRTGなどの荷役機械、冷蔵倉庫、港を出入りするトラックなどのカーボンニュートラルが考えられます。
将来的に水素やアンモニアを導入した時には、港で水素やアンモニアを荷揚げして、利用し、さらに背後地域へ展開することになります。さらに、船の燃料も将来的に水素やアンモニアということになると、港が全ての中心になります。
また、港の周りには、発電所や化学工業等といった日本のCO2排出量の約6割を占める産業の多くが立地しています。こうした産業は、現在、化石燃料やそれに由来する電力を使っていますが、将来的にカーボンニュートラルに転換していくことになれば、港がエネルギー供給の中心になってきます。

こうした取り組みを進める政策が、「カーボンニュートラルポート(CNP)形成計画」です。既に多くの港湾地域で検討が始まりました。CNPについては、政府の骨太の方針、成長戦略でもはっきり書かれました。さらに、菅前総理が日米首脳会談に行った時も、CNPを日米で一緒に進めていこう、ということで日米共同宣言の附属文書にしっかりと書かれました。また、日米豪印首脳会談の共同宣言でも海運・港湾の脱炭素化に4ヶ国で取組むことが明記されました。

経済産業省は連携してカーボン・ニュートラル・コンビナート構想を提案しています。CNP形成の取組を進める中で、臨海コンビナートの活性化が進めば、立地企業も専用岸壁の整備にもっと力を入れるでしょう。港湾を整備して大型船が入れるようになれば、その周辺の民間企業にとって輸送コストが下がるので、民間企業の国際競争力が高まり、設備投資も加速します。かつて日本の高度成長を牽引した港湾・臨海コンビナートを再び日本の経済成長のエンジンとするためにも、CNPの形成に向けた取組をしっかりと進めていきます。

カーボン・ニュートラル・ポート計画とカーボン・ニュートラル・コンビナートが合体させ特区的に支援し特区的に対応していきたいと思います。カーボン・ニュートラルを経済成長の糧にする具体的アプローチをこれからも全力で支援していきます。

重点政策

  1. 日本経済の安定は大前提です。
    特に、エネルギー、通信ネットワーク、交通ネットワークなどの社会インフラの革新は国の安全保障にも直結する最重要課題です。