あだち |
さて、もうひとつの課題、グローバル人材育成についてですが。まずグローバル人材の定義を教えてください。 |
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森本 |
グローバル人材とは簡単に言うと日本国内でも海外でも適応して同じように仕事ができる人です。あだちさんは商社マン時代に長い間、海外で働いていらっしゃったので、グローバル人材の一人だと言えると思うんですが(笑)例えば海外のオフィスに行き、そこで現地のスタッフに仕事をしてもらわなくちゃいけない。日本語でもなかなか言う事を聞いてくれないのに、それを外国語、例えば英語でやるんですから。相当、御苦労されたのではないでしょうか? |
あだち |
商社マン時代に海外で働いていましたし、商社を退社後は米国の法律事務所でも働いていました。いろいろ苦労もしたけど、非常に勉強になったというのが本音です。グローバル人材に必要な条件として、まず英語力とよく言われますが、私の実感で言うと、モノを売り込む英語は簡単です。モノを見せて「これがいくらです」と言えば良いので。あとは高いから安くしろと言う交渉になる。でも、海外で現地の社員に働いてもらう、モノを作ってもらうための英語は難しい。指示すれば、その通りに働いて作ってくれるなんて事は絶対に無いですよ。言葉の前にまず、「労働」に対する基本的な考えが違いますから。 |
森本 |
確かに海外で仕事をする場合、語彙が豊富である事よりもお互いの認識のズレを埋めるコミュニケーション力が大事ですよね。 |
あだち |
日本の会社組織ってある意味、暗黙の了解と言うか阿吽の呼吸のようなものがあるので、周囲に気配りしながら、抜け漏れが無いように空気を読みながら仕事を進めますよね。ですからジョブディスクリプション(職務記述書)もない。私は米国の工場の現場にいたのですが、これくらいやってくれるだろうなんて日本と同じように仕事を指示していると誰もやらない。なんでやらないのか聞いてみると「Nobody asked me to do so. そんな事やれなんて聞いてないよ~」とくる。別に悪気があるわけではなくて、国民性の違いなのでしょうね。 |
森本 |
グローバル人材には語学力だけではなく、国民性や価値観の違い、生活や文化など、ありとあらゆる違いを乗り越えられる能力が必要ですね。言葉にするのは簡単ですが、とにかく若いうちに一度、日本の外で働いてみると言う経験をしないとグローバル人材としてエントリーできない。 |
あだち |
こればかりは、海外でぶつかりながら、失敗しながら経験するしかないですね。座学では絶対に学べない「経験知」だから。ただ、商社時代の友人に聞いた話ですが、最近の若い商社マンの中には海外駐在を希望しない人も多いようなんです。私の時代、同期はみんな海外に行きたくてたまらないから商社に入ったのに(笑) |
森本 |
昔に比べて、今の若い世代は少し内向きな人が多いかもしれません。個人的な印象ですが、日本が安全で魅力的過ぎるので、わざわざ海外で学ぼう、海外で働こうと言うモチベーションが下がっているように思います。グローバル人材は海外に行かない限り育てる事ができないので、学生時代に留学を義務付けるとかしないとグローバル人材の数を増やす事は難しいかもしれませんね。 |
あだち |
留学する事をリスクと考える傾向があるのかもしれません。 |
森本 |
これからますますグローバル化が進むに従い、日本国内の労働市場もグローバル化していくのは間違いありません。例えば企業の採用面接で日本人と外国人が同じ土俵で競争しなければならないと言う事ですね。グローバル人材としての価値を高める努力を怠る事は、自分の収入が減ることを受け入れなければならないと言う事です。 |
あだち |
今ある職業がICTの進化で20年後には半分以下に減っていると言う予測もありますから、過去にしがみつくのではなく、敢えてリスクを取ってでも進化し続けるしかない。これは間違いないと思います。 |
森本 |
私、女性向けに講演する時に「専業主婦はもうマボロシの職業になる」と言う事を話しています。旦那さんに稼いでもらって奥さんは家事・育児に専念するなんて時代はもう終わってしまったのだと。ある程度の生活レベルを維持するためには男性も女性も働き続けなければならない時代なんだと思います。 |
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あだち |
ますます競争環境が厳しくなり、終身雇用や年功序列などの日本的な人事慣行が失われていくのは間違いありません。女性だけでなく、男性も含めた労働市場全体が大きく変化する中で多様な働き方が出てくるのではないかと思います。 |
森本 |
私が所属しているリクルートは兼業を認めているんですが、実は私、リクルートのサラリーマンであると同時に講演や著作を行う個人事業主でもあるんです。いろいろ調べてみると、日本の企業で兼業を認めている企業って数えるほどしかないんですね。 |
あだち |
サラリーマンと個人事業主の兼業。それも多様な働き方の一つだと思います。いきなり会社を辞めてゼロから起業するのはリスクがあるけれど、例えばしばらく個人事業主とサラリーマンを兼業して、ある程度やっていける目途がついた段階で個人事業主として独立する方が現実的ですね。起業を支援する方法も変えていく必要があると思います。個人的な印象ですが男性よりも女性の方が個人事業主として起業されてる方が多いように思いますが、いかがですか。 |
森本 |
私は日本ママ企業家大学の講師をやっているんですが、ここは今、企業で働いているワーキングマザーが起業するプロセスを学ぶためのコースなんです。昔に比べて女性で起業を目指している人ってものすごく増えたんじゃないでしょうか。統計的なデータ云々ではなく「肌で感じる」リアリティがあります。参加者に聞くと、例えばワーキングマザーを使いこなせない古臭い企業の中で補助的な業務に甘んじるくらいならば、独立して時間制約を受けない個人事業主になろうと考える人が多いんです。個人事業主として業務委託された方が無駄な会議に出る必要もなくなり、効率的に働けるのではないか?と考えているんだと思います。 |
あだち |
女性の社会進出と言うと、どうしても企業の中で女性が働きやすくするにはどうすれば良いか?と言う方向にばかり考えがちですが、現実的には上手く対応できている企業は少なそうですね。そうであればワーキングマザーを雇用する企業に対して補助金を出すと言う政策よりも、例えば女性が起業するためのプラットフォーム作りや個人事業主が契約で企業の仕事を受けやすくする法整備などワーキングマザーとして働きやすい環境を自ら創り出せるように制度設計をやり直した方が良さそうです。その方がトータルの生産性は上がるかもしれません。 |
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森本 |
そうですね。ワーキングマザーを受け入れる企業側の意識を変えるのは非常に難しいのですが、ワーキングマザーの起業支援の政策を考えていただく方が早そうです。企業の中での役職だとか肩書にこだわるワーキングマザーって少ないんじゃないでしょうか。それよりも仕事そのものが面白いかどうかが一番大事で、次に収入と時間の融通が利く事、これは在宅勤務も含めてですが。そう考えるとワーキングマザーはインデペンデント・コントラクター(独立業務請負人/IC)に向いていると言えますね。 |
あだち |
これは女性の社会進出と言う狭い視野で考えるのではなく、起業支援、つまりベンチャー企業育成から始まる日本経済の活性化と言う大きな視点でとらえるべきでしょうね。 |
森本 |
個人事業主として税務署に必要経費の説明に行った時に分かったんですが、ベビーシッターの費用って必要経費として認められないんです。ワーキングマザーとして働き続けるために必要な経費だと思ったんですが。 |
あだち |
例えば森本さんが個人事業主として講演する際に着る洋服代は経費として認められますよね。ワーキングマザーが個人事業主になった際のベビーシッター代なども必要経費として認める方向にしたらどうでしょうか? |
森本 |
それ、是非お願いします!起業するモチベーションが高まると思います。 |
あだち |
女性の社会参加を既存の企業の枠の中で考えるのではなく、起業支援も含めて制度設計をやり直した方が日本の競争力を上げる事にもつながりそうです。今日は森本さんとお話しする中で、ワーキングマザーの起業支援やグローバル人材育成方法のヒントをいただきました。今日はどうもありがとうございました。 |
●「女性の社会参加」や「グローバル人材の育成」の議論にはリアリティが必要不可欠。