あだちまさしと「いま」を語る
あだちまさし×森本千賀子
森本千賀子
●Profile
株式会社リクルートエグゼクティブエージェント
エグゼクティブコンサルタント 森本千賀子
1970年生まれ。株式会社リクルートエグゼクティブエージェント エグゼクティブコンサルタント。1993年リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。転職エージェントとして、大手からベンチャーまで幅広い企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がける。2012年4月より株式会社リクルートエグゼクティブエージェントに転籍。プライベートでは家事支援サービスをフル活用するなど「妻」「母」「ビジネスパーソン」として充実する「トライアングルハッピー」を目指す。現在、11歳と6歳と2男の母。
2015.4.27
今日は株式会社リクルートエグゼクティブエージェントの森本千賀子さんにお越しいただきました。森本さんはスゴ腕の人事コンサルタントとしても非常に有名な方ですが、妻と母と人事コンサルタントと言う三つの顔をお持ちのワーキングマザーでもあります。今日は女性の社会進出とグローバル人材の育成と言う二つの課題に関してお話をさせていただこうと思います。
全くリアリティが無いワーキングマザー向けの政策

森本

よろしくお願いします。最近、自治体や企業に呼ばれてお話しする事も多いのですが、今、私の所に持ち込まれる課題のほとんどは、今、あだちさんがおっしゃった二つの点、女性の活用とグローバル人材の育成です。

あだち

少子高齢化が急速に進み、人口減少時代を迎える日本にとって労働力を確保し、その質を高める事は避けて通れない課題だからですね。今、政府は「女性が輝く日本」をスローガンとして掲げていますが、一人のワーキングマザーとして森本さんの目からはどのように見えていますか?

森本

まず、政府が掲げた「女性が輝く」と言うスローガンや具体的な政策、例えば育児休暇3年とかも良いのですが、正直に申し上げて、私のようなワーキングマザーからすると「全然、現場を分かってらっしゃらないなぁ」と言う印象があります。実は私が所属しているリクルートは経営幹部から管理職層まで、まだまだ男性が多い企業なんです。かなり前から社内で女性活用の制度を進めているにもかかわらず、ワーキングマザーの活用では現実に即していない制度も多くあるんです。その理由は簡単でリクルートの経営幹部の奥様って専業主婦だからなんですね(笑)あだちさんも含めて政治家の方々の奥様も専業主婦が多いのではないでしょうか?もしかすると働く妻の日々の行動だったり、育児に関する悩み事とか、全てにリアリティが無いんじゃないかな?だからリクルートと言う一私企業の制度でも、日本の国の政策でも、女性活用のための施策って現実ばなれしているものが多いのかもしれませんね。

あだち

なるほど。私の妻も専業主婦なので、こうやって森本さんにお話を伺ったりする事は非常に勉強になります。先日、内閣府男女共同参画局長の武川恵子さん、この方はワーキングマザーの先駆けとも言える方ですが、彼女からお話しを伺った時、「保育所の待機児童数を減らせば女性が働きやすくなるのではない。そんな単純な話ではない」とおっしゃっていました。

森本

その通りです。例えば、霞が関に保育所が作られたという話を聞いたので、私も電話してみたんですが、利用者が多いのかと思って聞いてみると実はかなり空いているんです。これ、理由はとても簡単で、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車にワーキングマザーが子供を連れて通勤するのって無理だからです。職場、あるいは職場の近くに保育所があっても利用できない。どうしても自宅、あるいは自宅最寄駅周辺の保育所を探す事になります。

あだち

仮に運よく自宅そばの保育所に預けて働き始めたとする。でも、もし子供が急に熱を出したり具合が悪くなったら保育所から電話がかかってきて、30分以内に迎えに来てください・・・と言われるそうです。働くお母さんが一番困っているのは、子供が病気になった時に預かってくれる先が無いと言う事だと。これがワーキングマザーの現実ですと武川さんはおっしゃっていました。

森本

おっしゃる通りですね。それこそリアリティだと思います。乳幼児の頃の子供って頻繁に熱を出すじゃないですか。ところが、子供が病気をした時に保育所は預かってくれません。病児保育を引き受けてくれる施設の数も非常に少ない。しかも子供が病気になるタイミングって、大抵重なります。インフルエンザが流行っていたり、季節の変わり目だったりする。そうすると、ただでさえ数少ない施設への申し込みが殺到する。キャンセル待ちになる。他の施設を探す・・・。子供が病気をした時の対処が本当に切実な問題でワーキングマザーの多くが仕事を辞めるきっかけになります。

あだち

仮に自宅最寄駅そばの保育所に預ける事ができたとしても、熱が出たら30分以内に迎えに来てほしいと言われるのであれば通勤時間も大きな問題ですよね。

日本を救うのは女性かシニアか外国人か

森本

私はキャリア採用の最前線にいるのですが、今、日本は労働人口がどんどん減っています。中長期的に労働力の確保をどうするかと言う事が非常に大きな問題なんですけども、選択肢は女性かシニアか外国人しかない訳です。この中で最も現実的で可能性があるのは女性だと私は思います。私が相談を受けるワーキングマザーは働く意欲もあるし、能力も高い方が多いのですが、現実はなかなか厳しい。

あだち

先日、ある企業の採用担当の方に話を伺ったのですが、新卒の採用活動をすると試験も論文も面接も圧倒的に女性の方が高評価だそうです。ランキングの上位にずらっと女性が並ぶらしい。女性を戦力として活用しない手はないと雇用する側の企業も十分理解していると思うのですが、ワーキングマザーに対してはそうではないと。

森本

企業側が乳幼児を抱えた母親を雇う事をリスクと感じているようです。例えば、育児の都合で休みが多いのではないか?あるいはすぐ辞めてしまうのではないか?だから重要な仕事を任せられないのではないか?このような企業側の思い込みが障害になっているように思います。この障害を何らかの政策で取り除けないか?是非、あだちさんにお願いしたい事です(笑)

あだち

なるほど。採用する企業側の思い込みを覆すきっかけが必要なんですね。きっかけさえあれば一気に進む可能性があると言う事ですか。

森本

入社後しばらくしてから結婚、その後の出産を経て職場に復帰するワーキングマザーは問題意識も責任感も非常に強いので、生産性は非常に高いのではないかと思います。ですから、産休と言う多少のブランクがあったとしても、企業側も一度受け入れていただければ、貴重な即戦力である事がすぐ分かるのではないかと思います。

あだち

ワーキングマザーを即戦力として積極的に受け入れている会社って、どんな特徴がありますか?

森本

経営者、トップの本気度が全く違う会社ですね。日本の普通の企業って国の政策だからとか、世間体があるから、株主総会で突っ込まれるから・・・・などの理由で、言い方は悪いのですが「しょうがなく」女性を活用し始めるケースが多いようです。そうではなく、女性の力を活用する事が会社の躍進につながると本気で信じてくださる経営者がいる企業は全然違いますね。

あだち

なるほど。経営トップの本気度が採用の現場を変えると言う事ですね。

森本

また女性に限らず外国人、障害者を戦力として活用し、当たり前のようにダイバーシティ(多様性)を進めている会社。あるいは女性が中心的な顧客である会社ですね。

あだち

ダイバーシティに関してはヨーロッパ系の企業が圧倒的に進んでいますね。女性の社会進出と言うレベルではなく、トップマネジメントにどんどん優秀な女性が登用されている。

森本

そうですね。日本の企業でもトップに特にヨーロッパ駐在の経験があると全然違いますね。残念ながらそのような企業は非常に少ないのが現実ですが。